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赤ちゃん50人に1人が「死産」。家族を癒したJALのサービスはこうして生まれた

こんな記事を見つけました。

厚生労働省のデータによると、50人に1人の割合の赤ちゃんは死産してしまっているそうです。その耐え難い悲しみに、向き合っているサービスの一例が紹介されています。

お時間のある際に、ご覧になってみてください。

参照元:赤ちゃん50人に1人が「死産」。家族を癒したJALのサービスはこうして生まれた-ビジネス・インサイダージャパン

https://www.businessinsider.jp/post-164234


「死産」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。

日本産科婦人科学会は、妊娠22週(6カ月)より前に妊娠が終わることを流産(12週未満は早期流産、12週以降22週未満を後期流産)、そして22週以降を死産としている。

一方、厚生労働省令では「妊娠12週(4カ月)以降の亡くなった赤ちゃんの出産」を死産と定義しており、2016年には2万934件あった(厚生労働省人口動態統計)。出生数が97万6978件ということを考えると、50人に1人以上の割合だ。予測がつかず、突発的に起きることも多い。

しかも妊娠12週以降に子宮の中で胎児が亡くなると、人工的に陣痛を起こして「出産」しなければならない。我が子を亡くした悲しみと激痛に耐えながら出産しても、戸籍にすら載せてもらえない。それが死産だ。

そんな死産や流産、新生児死などの赤ちゃんの死を経験した母親たちを取材した本が『産声のない天使たち』だ。執筆したアエラ編集部記者の深澤友紀さんは言う。

「出産=キラキラしたもので元気な赤ちゃんを産めて当然だというイメージが強いですが、その陰で悲しい思いをしている女性がたくさんいるんです。でも、当事者は家族や友人にも明かせず苦しんでいることが多く、そういう声はなかなか表に出てきません。社会の理解も進まず、周囲の心ない態度や悪意なく発せられたひどい言葉でつらい思いをしている母親たちがいることを知ってほしい。彼女たちの痛みを少しでも想像してもらえたらと」

特に深澤さんが残酷だと感じたのが、医療現場の理解の低さだ。死産の赤ちゃんを「未滅菌」のシールを貼ったトレーに載せて母親の元へ運ぶ病院や、赤ちゃんを亡くしたその日の病院食に「お赤飯」を出され、それ以降20年以上お赤飯が食べられない女性もいたという。医師や看護師ができる*グリーフケアとしては、「出産後の母親に赤ちゃんに会ってもらう」「出棺までは冷蔵庫に入れずに母子同室で過ごしてもらい、できるだけたくさんの思い出を残してあげるように関わる」ことなどがあるが、こうした選択肢があることすら家族に説明しない病院もあるそうだ。

グリーフケア:身近な人を亡くした遺族をケアするサポートの一環。

葬儀社のスタッフでさえ何と言葉を掛けたらいいか分からなかった

一方で、企業の中には赤ちゃんの死に特化したサービスも増え始めている。

神奈川県にある横浜市民葬祭が赤ちゃんのための葬儀を執り行うようになったのは3年前。お腹の中で赤ちゃんが亡くなり、2日後に陣痛を起こして出産するという女性から、電話で葬儀の依頼を受けたのがきっかけだった。

普段から人の死に向き合ってきたスタッフも、あまりに傷ついたその声の様子に、何と声を掛けていいか分からなかったと言う。その後何件か赤ちゃんの葬儀をするうちに、病院や他の葬儀社の心ない対応を当事者から聞き、残された家族に寄り添うサービスが必要だと思うようになったそうだ。

今は、赤ちゃん専用の30センチの白い棺、9〜12センチの骨壷はピンクとブルーの2種類から選べるように用意し、悲しみの中で家族の大きな負担になる死産届けや火葬許可証の申請手続きなどもサポートする。小さな赤ちゃんの骨は残りにくいため、火葬は火が弱い朝の早い時間帯を案内している。

横浜市民葬祭などを運営するフューチャープランニング社長の清水正文さんは言う。

「火葬炉までのわずかな移動の間も、棺を『抱っこしていたい』『最後の瞬間まで離れたくないというご家族もいます。初めの頃はこうした家族の願いに耳を貸さない火葬場ばかりでしたが、私たちが交渉を重ねることで臨機応変に対応してくれるところが増えました。社会はまだまだ赤ちゃんの死に向き合っていないと思います」(清水さん)

日常の中の悲しみに心を配る企業もある。これは『産声のない天使たち』に紹介されている女性の声だ。

「亡くなった赤ちゃんも家族」としてサービス

それは、赤ちゃんを出産後数日で亡くした女性が、夫と2人で海外へ向かった飛行機内でのことだった。

女性は産後1年間は「いろんな景色を見せてあげたい」という思いから外出時には赤ちゃんの写真と遺骨をバッグに入れて持ち歩いていた。離陸のとき、その写真を握りしめながら「一緒に連れてきてあげられなかった」と涙がこみ上げてきたという。そこに女性の客室乗務員が「失礼ですけど、ちょっとお話、いいですか」と話しかけて来た。子どもが亡くなったことを明かすと涙を流して聞いてくれ、翌朝機内で目を覚ますと、機内のありったけのものを集めたのではないかと思うほどのたくさんのおもちゃと、乗務員一同から一言づつメッセージが書かれたポストカードが置かれていた。朝食では「お子さまの分です」と、離乳食や子ども用のふたとストローがついたジュースを用意してくれ、帰りのフライトでは違う乗務員だったにもかかわらず、同じように「3人」としてサービスしてくれたそうだ。

マニュアルはない、大切なのは機内全体の空気感

これは日本航空(JAL)のハワイ便、エコノミークラスでの出来事だ。

機内で誕生日や記念日などを「祝う」サービスは広く知られているが、今回のようなグリーフケアとも言える「悲しみ」への対応にはどんなポリシーがあるのだろうか。JALで客室乗務員の教育などを担当する猪田京子さん(客室教育訓練部アドバイザーグループ・グループ長)に聞くと、

「マニュアルで決められたことはありません」

とキッパリ。今回のケースは乗務員の判断で行ったことだという。

「機内には本当にさまざまな状況のお客さまがいらっしゃいます。新婚旅行でお幸せなご様子のお客さまの隣に、深い悲しみを抱えたお客さまが座っていらっしゃったり。私たちが心掛けているのは、一緒に喜んだり一緒に悲しんだりして、とにかくそのお気持ちに寄り添うことです。同じような状況でも感じ方は人によって千差万別なので、今回のようなケースでも『触れてほしくない』という方もいらっしゃるはず。会話する中でお客さまが何を望んでいらっしゃるのかを判断しながら対応していくように心がけています」

特別な計らいをするときには、周囲の乗客がそれを見てどう思うかにも配慮している。大切なのは「機内全体の空気」。何かを祝うときも、状況によってはその乗客の座席ではなくバックグラウンドに来てもらうこともあるそうだ。

まずは人間に関心を持って

こうした判断は乗務員が独自に行うため、かなりの裁量が与えられていることになる。社員教育の基礎になっているのは、経営破たん後の2011年に策定された「JALフィロソフィ」だ。社員の価値観や行動哲学をまとめたもので、中でも猪田さんが大切にしているのは「お客さま視点を貫く」ということ。研修では過去のサービスの膨大な成功例・失敗例を出しながら、「あなたがお客さまだったらどう思う?」「乗務員としてどう対応する?」と問いかけ、シミュレーションやディスカッションをひたすら繰り返していく。

例えばこうだ。

「ある乗務員が国内線の機内でご夫婦2人からジュースを4つ頼まれたことがありました。乗務員は「喉が乾いているだけかもしれない」と思いながらも声をかけると、実は2011年の東日本大震災で子ども2人を亡くしたのだと話してくださり、乗務員はそれを傾聴したそうです。

後日、手紙が届き、乗務員に話を聞いてもらえたことで前向きに生きていこうと気持ちが変わったことと、感謝の気持ちが綴られていました。その乗務員は声をかけたときはそんな事情があると分かっていなかったけれど、どうなされたのかな?と察する力があったことでお客さまの気持ちは変わりました。

私たちの仕事の意義とは何でしょうか?」

2週間に1回、客室乗務員用のメールマガジンを発行し、どんな状況でどのようなサービスをしたら喜ばれたか、世界各地の事例を共有して、常に情報をアップデートしている。

「それでも訓練には限界があります。察する力、すなわち感知力は経験を積み重ねて磨いていくしかありません。そのためにも日頃から人間に対して関心を持つようアドバイスしています。まずは一緒の職場で働く仲間に対してです。JALの客室乗務員は7〜8人のチームで業務を行うので、常に仲間を思いやる心を持ちましょうと言っています。後輩は先輩を見て学び、先輩は後輩を常に指導できる環境が整っているので、能力を伸ばすことにつながっていると思います」(猪田さん)

テキパキ作業をこなす能力と、感知力や人を思いやる能力はまた別だと猪田さんは言う。そして、後者はなかなか向上しづらいのだと。後輩にヒントを与え、気づきを促すのは先輩乗務員の大切な役割だ。過去にこんなことがあった。

40代くらいの女性がぬいぐるみを大切そうに抱えて搭乗して来たことがあった。それに真っ先に気づいたのがチーフの乗務員だ。「きっと本人にとって特別なものなのだろう、何かして差し上げたい」と思い、後輩の若い乗務員に「お名前を聞いてみて」と促したところ、やはりぬいぐるみには名前があった。その後、若い乗務員がその名前を呼びながら、「ジュースお飲みになりますか」と子どもの乗客のように対応したところ、女性は「過去に搭乗したときは、ぬいぐるみをモノ扱いされ棚の上にしまうよう注意されたこともあったが、今回は大切にしてくれて本当に嬉しかった。子どもに恵まれなかった私にとってこのぬいぐるみは子ども同然なんです」と喜んでくれたそうだ。

こうした体験があるかないかが、若い乗務員の今後を大きく左右する。

「お食事や飲み物を提供するのは当たり前のことです。限られた時間と空間の中でどれだけお客さまの気持ちに寄り添えるか、心に残るようなプラスアルファのサービスができるかが、私たちJALが目指しているサービスです。お客さまにとってはほんの数時間の単なる移動手段かもしれません。それでも人の人生に関わる仕事なのだという自覚を持って対応できる客室乗務員をこれからも増やしていきたいですね」(猪田さん)

身近なサービスが、悲しみに真剣に向き合い始めた。

(文・竹下郁子)

 

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